この記事の要約
- 取引でもめる原因のほとんどは、最初に決めていなかったことです。
- 着手前に決めるべきは7項目。すべてチャットの文字で残せば十分です。
- 最重要は作業範囲と修正回数。ここが曖昧だと、作業だけが無限に増えます。
- 実績掲載の可否は着手前に聞いてください。納品後だと断られやすくなります。
- 2024年11月からフリーランス法が施行されています。発注者には書面交付と60日以内の支払いが義務づけられました。
- 契約書がなくても、やり取りの記録が証拠になります。電話で決めたことは必ず文字に残してください。
- 「言いにくいから聞かない」がいちばん危険です。最初に聞く人ほど、信頼されます。
結論:もめる原因は、決めていなかったことです
制作の仕事でトラブルになるとき、原因はほぼ決まっています。
最初に決めていなかったことが、後から問題になる。これだけです。
相手が悪質だったというケースは、思うほど多くありません。多くは「お互いに違う前提で進めていた」だけです。修正は3回までのつもりだった人と、納得いくまで直してもらえると思っていた人。どちらも悪意はありません。
だから対策は単純です。着手前に、7つのことを決めてください。
私は札幌でWEB制作をしている個人事業者です。制作会社と広告代理店でクライアントワークを担当し、事業会社では外注先を管理する側にいました。いまは自分でもパートナーを探しています。
その経験から、最初に決めておくべきことを書きます。
着手前に決める7項目
1. 作業範囲
いちばん重要です。ここが曖昧だと、他の全部が崩れます。
「サイトを作る」では足りません。次の粒度まで決めてください。
- ページ数(トップ+下層◯ページ)
- スマートフォン対応の有無
- フォームの設置は含むか
- WordPress化まで含むか
- 画像の加工やバナー制作は含むか
- 公開作業は含むか
特に「含まないこと」を書いてください。「原稿作成は含みません」「撮影は含みません」。これがあるだけで、後の話が早くなります。
2. 修正回数
2番目に重要です。決めないと、作業だけが増えて金額は変わりません。
「修正2回まで、それ以降は別途お見積り」と書いてください。回数は2〜3回が一般的です。
あわせて、何を1回と数えるかも決めておくと安全です。「いただいたご指摘をまとめて対応する単位を1回とします」。バラバラに送られてくると、5回分の作業が1回として扱われかねません。
3. 素材の支給
写真、ロゴ、原稿。これらを誰が用意するかを決めてください。
「支給いただく前提」と書いておかないと、当日になって「写真はそちらで用意してもらえると思っていた」となります。
制作が止まる原因として最も多いのが、この素材待ちです。いつまでに支給いただくかも決めてください。「素材のご支給から◯営業日で初稿をお出しします」という書き方が有効です。
4. 納期と、その起点
「10月末納品」だけでは足りません。何から数えて何日かを決めてください。
素材が届かなければ着手できません。それでも納期だけが固定されていると、こちらが遅れたことになります。
「素材のご支給から10営業日」「ご確認のご回答から5営業日」。この形にすると、遅れの責任がはっきりします。
5. 金額と支払い時期
金額だけでなく、いつ支払われるかを必ず確認してください。
- 締め日はいつか(月末締めが一般的)
- 支払いは何日後か(翌月末が多い)
- 振込手数料はどちらが負担するか
- 請求書はいつまでに出すか
「納品したのに2ヶ月入金がない」という相談をときどき聞きます。多くは、支払いサイトを確認していなかっただけです。先に聞いておけば、資金繰りの計画も立てられます。
6. 実績としての掲載可否
これは着手前に聞いてください。
納品後に「ポートフォリオに載せてもいいですか」と聞くと、断られやすくなります。すでに納品は終わっており、相手にとって断るコストがないからです。
着手前なら、条件のひとつとして交渉できます。
差し支えなければ、完成後にポートフォリオへ掲載させていただけますでしょうか。
社名を伏せる形でも構いません。難しい場合はその旨お知らせください。
「社名を伏せる形でも」という代案が効きます。全面的に不可という会社は、実はそれほど多くありません。
掲載できない仕事ばかり受けていると、1年経っても実績が増えません。お金にはなっても、資産にはならないということです。
7. 著作権と、納品データの扱い
見落とされがちですが、後で効いてきます。
制作物の著作権を譲渡するのか、使用を許諾するだけなのか。譲渡すると、自分の作品として扱えなくなる場合があります。
また、デザインデータ(PSDやFigmaなど)を納品対象に含めるかも決めてください。含める場合は、その分の金額を見込む必要があります。
「納品はコーディング済みのファイル一式とし、デザインの元データは含みません」。この一文があるだけで、後の請求を防げます。
あわせて、見積書は必ず出してください
金額をチャットで伝えるだけで済ませていませんか。それでも取引はできますが、見積書があると相手が動きやすくなります。
会社は、社内で稟議を通す必要があります。「チャットに5万円と書いてありました」では通りません。書式の整った1枚があるだけで、決裁が早く進みます。
見積書には、作業範囲と修正回数も書いてください。金額の根拠が見えると、値切られにくくなります。「一式」だけの見積書は、削られやすくなります。
無料の作成サービスがいくつもあります。最初に一度ひな形を作れば、以後は数分で発行できます。
フリーランス法について
2024年11月1日から、フリーランス・事業者間取引適正化等法(通称フリーランス法)が施行されています。
知っておいて損はないので、要点だけ書きます。
発注者に義務づけられたこと
- 取引条件を書面か電子データで明示すること……口頭だけの発注は認められません
- 納品日から60日以内に報酬を支払うこと……できるだけ早い日を設定する必要があります
- 一方的な減額や、受領の拒否をしないこと
- ハラスメントへの体制整備
ここで大事なのは、「条件を書面で示すのは発注側の義務」という点です。
つまり、条件を確認するのはわがままではありません。法律が発注側に求めていることです。遠慮なく聞いてください。
ただし、頼りすぎないでください
法律があっても、実際にもめたときの手間は変わりません。相談窓口はありますが、時間も労力もかかります。
もめないようにするのが最善です。そのための7項目です。
契約書がない場合、どうするか
小さな案件では、契約書を交わさないことも多いです。それ自体は珍しくありません。
そのとき大事なのは、やり取りを文字で残すことです。
チャットとメールが証拠になります
チャットワークやSlackのログ、メールの履歴。これらは十分に記録として機能します。
問題は電話や口頭で決めたことです。記録が残りません。
打ち合わせの後、必ずこう送ってください。
本日はありがとうございました。
確認のため、決まった内容をまとめます。
・作業範囲:トップ+下層5ページのデザイン
・修正:2回まで
・素材:御社よりご支給
・納期:素材支給から10営業日
・金額:◯円(税込)
認識に相違がありましたらお知らせください。
これを送るだけで、証拠になります。相手が「その通りです」と返せば合意です。何も返ってこなくても、送った記録は残ります。
5分で書けます。もめたときの労力を考えれば、圧倒的に安い投資です。
聞きにくいと感じる方へ
「こんなことを最初に聞いたら、面倒な人だと思われないか」
そう感じる方は多いと思います。私も発注される側だったころは、そう思っていました。
ただ、発注する側になって、認識が変わりました。
最初に条件を確認してくる人は、面倒どころか「慣れている」と評価されます。後でもめる心配が減るからです。
逆に、何も聞かずに「はい、やります」と言う人のほうが不安になります。本当に理解しているのか、後で認識のずれが出ないか。そこを心配します。
聞くことは、信頼を下げません。むしろ上げます。
聞き方も難しく考える必要はありません。
進めるにあたって、いくつか確認させてください。
・修正は何回までを想定されていますか
・素材はご支給いただけますか
・お支払いのサイトを教えていただけますか
これで十分です。丁寧に聞けば、失礼にはなりません。
よくあるご質問
初めての相手で、条件を聞いたら断られました
それは、断られてよかった案件です。
条件を明示できない、あるいはしたくない相手は、後で必ずもめます。着手前に分かったのは幸運です。
途中で作業範囲が広がってきました
「その作業は当初の範囲外ですので、別途お見積りとさせてください」と伝えてください。
言いにくければ、金額を出す形にすると角が立ちません。「◯円で対応可能です。いかがしましょうか」と聞けば、判断は相手に渡ります。
請求書の書き方が分かりません
最低限、次の項目があれば足ります。宛名、発行日、請求番号、品目と金額、消費税、合計、支払期限、振込先、自分の氏名と連絡先です。
インボイス制度の登録をしている場合は、登録番号の記載も必要になります。登録の有無は、取引前に相手へ伝えておいてください。金額の扱いが変わることがあります。
支払いが遅れています。どうすればいいですか
まず事務的に確認してください。「◯月◯日付のご請求について、入金の確認が取れておりません。ご確認いただけますでしょうか」
単純な処理漏れであることが大半です。それでも動かない場合は、フリーランス・トラブル110番など公的な相談窓口があります。
秘密保持契約を求められました。結んでいいですか
通常の取引では、結んで問題ありません。むしろきちんとした会社ほど求めてきます。
ただし、実績掲載が一律禁止になっていないかだけは確認してください。そこは交渉できる部分です。
まとめ
着手前に決めるべきことを整理します。
- 作業範囲……含まないことも書く
- 修正回数……2〜3回。何を1回と数えるかも
- 素材の支給……誰が、いつまでに
- 納期……何を起点に何日か
- 金額と支払い時期……締め日、支払日、振込手数料
- 実績掲載の可否……必ず着手前に
- 著作権とデータの扱い……元データを含むかどうか
2024年11月からのフリーランス法により、取引条件を明示するのは発注側の義務になりました。確認を求めることは、わがままではありません。
契約書がなくても、チャットやメールの記録が証拠になります。打ち合わせの後に決定事項をまとめて送る。これを習慣にするだけで、トラブルはほとんど防げます。
私自身、発注する側になってから強く感じています。最初に条件を確認してくる人ほど、安心して仕事を任せられます。聞くことをためらわないでください。
なお、私も制作パートナーの方を探しています。ご興味がありましたら制作パートナー募集のページをご覧ください。単価についてはこちらの記事、継続して発注される人の共通点はこちらの記事に書きました。
この記事の情報について
この記事は2026年1月時点の内容です。フリーランス法に関する記載は、公正取引委員会および厚生労働省が公表している内容にもとづく概要です。
個別の取引で法的な判断が必要な場合は、弁護士やフリーランス・トラブル110番などの公的な窓口にご相談ください。この記事は法的助言を目的としたものではありません。
