フリーランスのインボイスと源泉徴収|取引の前に伝えるべきこと

この記事の要約

  • インボイス登録の有無は、取引を始める前に相手へ伝えてください。後から分かると、金額の調整という気まずい話になります。
  • 免税事業者からの仕入れには経過措置があります。2026年9月末までは80%、その後2029年9月末までは50%が控除できます。
  • 登録するかどうかは取引相手で決まります。相手が課税事業者中心なら登録、一般消費者中心なら不要という判断が基本です。
  • デザイン料と原稿料は源泉徴収の対象です。コーディングのみの場合は原則として対象外です。
  • 源泉徴収された分は取られっぱなしではありません。確定申告で精算され、多くの場合は還付されます。
  • この記事は概要です。個別の判断は必ず税理士か税務署に確認してください。
目次

先に、この記事の位置づけを書きます

税務の話です。私は税理士ではありません。

この記事は、フリーランスとして実務で必要になる範囲の概要をまとめたものです。個別の判断が必要な場面では、必ず税理士か税務署に確認してください。

そのうえで、なぜ書くか。「何を確認すればいいのかが分からない」状態がいちばん困るからです。論点さえ分かっていれば、税務署の無料相談で聞けます。

私は札幌でWEB制作をしている個人事業者です。制作会社と広告代理店を経て独立し、いまは発注する側にも回っています。発注側として、相手の登録状況を確認する立場でもあります。

インボイス制度:何が起きているのか

仕組みを、最短で説明します

会社は、売上で預かった消費税から、仕入れで払った消費税を差し引いて納税します。この差し引きを仕入税額控除といいます。

2023年10月から、この差し引きをするには「適格請求書(インボイス)」が必要になりました。そしてインボイスを発行できるのは、登録した課税事業者だけです。

つまり、こういうことです。

登録していない人に外注すると、発注側の納税額が増えます。

これがフリーランスに影響している理由のすべてです。技術とも実力とも関係ありません。発注側のコスト構造の問題です。

経過措置があります

ただし、いきなり全額が控除できなくなるわけではありません。段階的に減る仕組みになっています。

  • 2023年10月〜2026年9月……仕入税額の80%が控除できます
  • 2026年10月〜2029年9月……50%が控除できます
  • 2029年10月以降……控除できません

いま(2026年前半)は80%の期間です。発注側の実質的な負担増は、報酬額の2%程度にとどまります。この程度なら、登録していない人にも問題なく発注できます。

ただし、2026年10月から50%に下がります。ここで負担増は5%程度になります。判断が変わる会社が出てくる可能性があります。

登録すべきかどうか

結論から書きます。取引相手で決まります。

登録したほうがいい場合

  • 取引先が制作会社や事業会社(課税事業者)中心
  • すでに売上が年1,000万円を超えている、または超えそう
  • 取引先から登録番号を求められている

WEB制作を制作会社の外注として受けている場合、多くはこちらに当てはまります。

登録しなくてよい場合

  • 取引先が一般消費者や、小規模な個人事業中心
  • 売上が小さく、納税が事業を圧迫する

個人のお客様を相手にしている場合、相手は仕入税額控除をしません。登録しても意味がありません。

登録すると、何が起きるか

免税事業者だった人が登録すると、消費税を納める義務が生じます。これが最大の負担です。

ここで知っておきたいのが2割特例です。免税事業者から課税事業者になった人は、納税額を売上に係る消費税額の2割にできる措置があります。

ただし期間が限られています。個人事業主の場合、2026年分(令和8年分)の申告までが対象です。その先は通常の計算に戻ります。

登録を検討する際は、ここを含めて試算してください。いまの負担ではなく、来年以降の負担で判断する必要があります。

取引の前に、必ず伝えてください

実務でいちばん大事なのは、これです。

登録の有無は、取引を始める前に相手へ伝えてください。

請求書を受け取って初めて「登録番号がない」と分かると、発注側は経理処理を組み直すことになります。そして「では金額を調整させてください」という、気まずい話になります。

先に伝えておけば、その金額を前提に見積りができます。

なお、当方は適格請求書発行事業者として登録しております。
登録番号:T0000000000000

なお、当方は現在、適格請求書発行事業者の登録をしておりません。
そのため、お支払いいただく消費税分について、貴社側で仕入税額控除の対象とならない場合がございます。
その前提で、お見積り金額をご検討いただけますと幸いです。

登録していない場合こそ、先に言ってください。隠していたと受け取られるのが、いちばん損をします。

そして正直に書きますが、これを先に伝えてくる人は、それだけで信頼されます。実務が分かっている人だと判断されるからです。

登録を理由に、一方的な減額はできません

免税事業者であることを理由に、発注側が一方的に報酬を引き下げることは、独占禁止法や下請法上の問題となるおそれがあります。

また、2024年11月に施行されたフリーランス法でも、一方的な減額は禁止されています。

ただし、協議のうえで金額を決めることは可能です。「消費税分の負担が増えるので、この金額でお願いできませんか」という相談自体は、違法ではありません。

納得できなければ、断って構いません。フリーランス法についてはこちらの記事にまとめました。

源泉徴収:デザイン料は対象です

もうひとつ、混乱しやすいのがこちらです。

何が対象になるか

個人に支払う報酬のうち、一定のものは支払う側が所得税を差し引いて納付することになっています。

WEB制作の周辺でいえば、次が対象です。

  • デザインの報酬……対象です
  • 原稿料……対象です
  • 写真の報酬……対象です
  • イラストの報酬……対象です

一方、コーディングやプログラミングのみの報酬は、原則として対象外とされています。

ただし、デザインとコーディングをまとめて請け負った場合の扱いは、内容によって判断が分かれます。迷う場合は、請求書で内訳を分けたうえで、支払う側と確認してください。

税率

報酬額のうち100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%です。

10万円のデザイン料なら、10,210円が差し引かれ、手取りは89,790円になります。

消費税の扱い

請求書で報酬額と消費税額が明確に分かれている場合、報酬額(税抜)に対して源泉徴収してよいとされています。

分かれていないと、税込金額に対して計算されることがあり、手取りが減ります。請求書は必ず内訳を分けて書いてください。

個人事業主が支払う側の場合

私自身がここで迷いました。

従業員を雇っていない個人事業主は、原則として源泉徴収義務者にあたりません。つまり、外注費から差し引く必要がない場合があります。

そのため、相手が会社なら源泉徴収される、相手が個人事業主なら源泉徴収されないということが起こります。同じ仕事でも、請求の形が変わります。

これは間違いではありません。驚かないでください。

源泉徴収された分は、戻ってきます

ここが誤解されがちな点です。

源泉徴収は、税金の前払いです。取られっぱなしではありません。

確定申告で1年分の所得税を計算し、すでに天引きされた分を差し引きます。払いすぎていれば還付されます。

フリーランスは経費を差し引いて所得を計算するため、実際の税額より多く天引きされていることが少なくありません。結果として、還付になるケースが多いです。

だから、支払調書は保管してください

取引先から支払調書が届くことがあります。1年間の支払額と、源泉徴収された額が書かれた書類です。

発行は義務ではないため、届かないこともあります。届かない場合に備えて、自分でも記録してください。

請求書の控えに「源泉徴収額」を書いておき、年末に合計する。これだけで足ります。

よくあるご質問

登録番号を求められましたが、登録していません

正直に伝えてください。「現在は登録しておりません」で構いません。

そのうえで、相手が経過措置を踏まえて判断します。2026年9月末までは80%が控除できるため、断られるケースは多くありません。

登録は、いつでもできますか

申請は随時可能です。ただし登録の効力が生じる日には決まりがあります。手続きと時期は国税庁のサイトか税務署で確認してください。

また、一度登録すると取りやめにも手続きと期限があります。気軽に戻せるものではないと考えてください。

請求書に源泉徴収額を書くべきですか

書いてください。相手の経理処理が楽になります。

小計     100,000円
消費税     10,000円
合計     110,000円
源泉徴収税額 ▲10,210円
お振込金額   99,790円

最後に「お振込金額」を明記するのが要点です。相手が計算し直す必要がなくなります。

源泉徴収されるべきなのに、されていません

支払う側の判断です。こちらから指摘する義務はありません。

されていない場合は、確定申告で全額を自分で納めることになります。その分の資金は残しておいてください。

青色申告はしたほうがいいですか

控除の額が大きく異なるため、基本的にはしたほうが有利です。

ただし帳簿の要件があります。会計ソフトを使えば大きな負担にはなりません。詳しくは税務署か税理士にご相談ください。

税理士に頼むべきですか

売上が小さいうちは、会計ソフトと税務署の無料相談で足ります。

売上が増えてきたら、相談する価値があります。節税の判断より、時間が戻ってくることのほうが大きいと感じています。

まとめ

実務で押さえるべき点を整理します。

  • 登録の有無は、取引前に伝える……登録していない場合こそ、先に伝える
  • 経過措置は2026年9月末まで80%、その後50%……いまは影響が小さい
  • 登録の判断は取引相手で決まる……会社中心なら登録、個人中心なら不要
  • デザイン料と原稿料は源泉徴収の対象……コーディングのみは原則対象外
  • 請求書は内訳を分ける……税抜の報酬額に対して源泉徴収されます
  • 源泉徴収は前払い……確定申告で精算され、多くは還付されます

面倒に見えますが、一度ひな形を作れば、以後は同じ処理の繰り返しです。請求書の書き方は見積書の記事でも触れています。

なお、私も制作パートナーの方を探しています。ご興味がありましたら制作パートナー募集のページをご覧ください。登録の有無は問うていません。

この記事の情報について

この記事は2026年2月時点の内容です。国税庁が公表している資料にもとづく概要であり、税務に関する助言を目的としたものではありません。

制度は改正されることがあります。また、個別の取引がどう扱われるかは、契約内容や事業の実態によって異なります。実際の判断にあたっては、必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。税務署では無料の相談を受け付けています。

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